バナー4.png

『片手袋の定義①』

手袋と手袋の距離

まずは大前提として、「片手袋とは何か?」を定義しなくてはならないでしょう。一口に“片手袋”といっても、それがどのようなものか定義しようとすると幾つかの難しい問題が浮上してきます。簡単に言えば「まちで見掛ける片方だけ落ちている手袋」となりますが、果たして本当にそれで良いのでしょうか?
p1010001.jpgP2190017.JPG片手袋 (110).JPG
例えば上の写真。どれもちゃんと一組揃いで落ちていたり、干されていたりする手袋です。これらは勿論片手袋ではありません。しかし、考えてみて下さい。ピューっと突風が吹いて、このうち片方の手袋がコロコロと転がり、もう片方と段々離れていく。その間隔が10cmなら、それはまだ一揃いの手袋でしょう。しかし間隔が20cm、30cm、1m、遂には50mまで拡がってしまったら、果たしてそれは“一揃いの手袋”と言えるでしょうか?そこまで拡がればもうそれは、“片手袋が二つ”となるのではないでしょうか?

このように二つの手袋の距離によって、揃いの手袋にも片手袋にもなり得るのです。しかし、それがどのくらいの距離から変化するのか?と聞かれれば境界は曖昧です。これは「スカートの裾とハイソックスの間の感覚はどれぐらいが理想なのか?」という“絶対領域問題”や、「どれだけ恋人達の距離が離れていても恋愛は成立するのか?」という“遠距離恋愛問題”と並び、“日本三大間隔問題”の一つなのです。多分。

このように片手袋を定義しようとしても、それは案外難しい話なのです。

『片手袋の定義②』

三つの手袋

1364913744_248.jpg
上の写真を見て下さい。

深夜に東京湾で釣りをしていて見つけた片手袋です。早速カメラで「パシャリ」と写真を撮ったのですが、何かがおかしい。よくよく見てみると、この軍手のすぐ横に同じ柄(滑り止めが黄色いイボイボ)の軍手が落ちているではありませんか!

051025_3_2.jpg
「両方揃っている手袋が落ちているだけで、片手袋ではなかったのか?」と考えていると、ふと視線を移した先にまたもや軍手を発見したのです。慌てて近寄ってみると、なんと先程の二つと同じ柄。
051025_2_3.jpg
僕はしばらく考えました。同じ柄の軍手が三つある。この中の二つがセットなのだとしたら、余った一つは片手袋!しかしよく考えてみると、さらにもう一つの可能性が浮上してきました。それは「三つとも片手袋である」という可能性…。

この三つの手袋達に出会った時、僕は片手袋を定義する事の難しさに気付いてしまいました。だってこんなのもあるんですよ。
111129_085546.jpg
手袋が五個落ちてたの…。

こういった事例は一般的な片手袋の魅力とは乖離しているようにも思われますが、片手袋という存在に根源的な疑問を投げ掛けてくる興味深い事例でもあるんです(ほら、そこ、真面目な話してるんだから「“一般的な魅力”って何?片手袋なんて趣味に一般性なんかあるのかよ!」とか言わない!)。

そこで、前回の手袋と手袋の距離の問題と併せて考えてみると、片手袋は以下のように定義できるのではないでしょうか?

「まちのあらゆる場所で見掛ける、見渡す範囲では対をなすもう片方のない、且つ、出来れば一つだけポツンと落ちている片方だけの手袋」

…長々と書いてきて長々とした定義にたどり着いたけど、滅茶苦茶普通でした。

まあでもほら、例えば「焼き肉は美味しい」とか、分かりきった事実でも遠回りして一つ一つの要因を検証してそれが何故美味しいのかを突き詰めていく姿勢って大事でしょ(泣きながら書いてる)?

『片手袋と季節の関係』

片手袋は一年中存在している

一年の中で片手袋が一番多く発生する時期はいつか?それは誰に聞いても「冬!」と答えるでしょうし、実際それは正しいです。

手袋というものの用途を考えてみると、①手の保護や滑り止め②暖をとる③お洒落のアイテム、といったあたりが考えられます。冬はこの三つの用途全てにおいて手袋を使用する時期なので、当然片手袋が発生する可能性も高くなるのです。
110105_151008.jpg1_42_4.jpg1_32.jpg
なので上の写真のように、色んな種類の片手袋を色んな場所で味わえる、まさに最盛期と言えますね。

面白い事に、同じ冬でもその年によって若干片手袋との遭遇率が変わってきます。例えば2006年暮れから2007年初頭にかけての冬、片手袋が例年の倍以上(あくまで僕の実感)発生しました。何故でしょう?実はこの年の冬は記録的な暖冬だったのです。

つまり冬だという事で皆、惰性で手袋を持ち歩いてはいたものの、暖かくてつける機会はなかった。つける機会がない手袋は鞄の中にしまわれたまま、持ち主の意識の外に追いやられていく。手袋に対する意識が薄いという事は、落ちやすい、また落ちても気付かない状況を作り出す。こうして大量の片手袋が発生した、という僕の推理はおそらく正しい。何がなんでも正しいのです。

なんと、暖冬という気象条件が、皆の気付かない意外な所、片手袋界にも大きな影響を及ぼしていたのです!

さて、かといってそれ以外の季節に片手袋を目撃する事はないか?というと、全くそんな事はありません。

一番手袋と縁遠いと思われる夏でさえ、毎年一定数の観測をする事が出来ます。夏場でも各種作業中は手袋をする機会があるし、なんなら暑さに耐えられず手袋の脱着回数は増えるので、落とす可能性も高くなるのです。
1_26.jpg111114_124056.jpgpb070216_4.jpg
上の写真のような軍手やゴム手など、作業系の片手袋は夏場増える傾向にあります。

どちらかと言えば片手袋との遭遇率が低いのはむしろ、春と秋のような気がしますがそれでも全く出会わない訳ではありません。

つまり季節は、片手袋の量と種類に影響を及ぼすものの、観測自体は一年を通じて可能なのである。

だから片手袋をキノコに例えると、旬の味覚を味わう存在としての松茸というより、年間通じて地味ながら安定した旨味を保証するエノキのようなものなのです。

【今回の結論】→最後のキノコの例えの件は全く不必要。

『片手袋の発生しやすい場所・条件①』

冬場のファッション類編

片手袋が発生しやすい場所や条件はあるのでしょうか?何度も言うように片手袋はまちのいたる所で見付ける事が出来るので、そのような偏りはないようにも思えます。
2970921_7.jpg
しかし、例えば上の写真を見て下さい。自動販売機の前に落ちている片手袋。この写真を撮ったのは冬です。

冬場で手袋をしているが、小銭を財布から取り出したり、自動販売機のボタンを押したりする為に手袋を片方取る。そして、それを脇などに挟んでいるうちに落としてしまう。そんなストーリーが容易に想像出来ますよね?
1 (6).JPG
この写真の片手袋はどうでしょう?

これも何故ここに落ちているのか分かりやすいです。お母さんが子供におねだりでもされたのか、ガチャガチャを買う為に手袋を外したまま忘れたのでしょう。つまり、冬場であれば手袋を脱着する機会の多い場所は全て片手袋が発生しやすい場所なのです。

自動販売機やガチャガチャの他にも、駅の切符売り場、ATMなどが考えられます。

また屋外だけでなく、公共施設など長時間手袋を外す事になる室内も意外に片手袋を発見しやすい場所です。

どこにでも落ちている片手袋ではあるが、その中でも見付けやすい場所と言うのが確かに存在するようです。

今日は冬場のファッション類を中心に考察しましたが、次回は軍手やゴム手袋の片手袋が発生しやすい場所や条件について考えてみましょう。

『片手袋の発生しやすい場所・条件②』

片手袋の聖地(其の一)~築地市場~

前回は、主に冬場の片手袋多発地帯について考察してみました。簡単に書くと「片手袋多発地帯=手袋の脱着回数が多い場所」という結論でした。

しかし、それは冬場のお洒落目的手袋の話。片手袋の約半数以上を占めるのは一年通じて観測出来る作業系片手袋、つまり軍手やゴム手袋なのです。

それではそれら作業系片手袋にも発生しやすい場所はあるのでしょうか?

結論から言うと軍手やゴム手袋はどこにでも落ちています。つまり日本全国全てが多発地帯、と言っても過言ではないのです。しかし、その中でも軍手やゴム手袋が落ちている可能性が恐ろしく高い場所、片手袋密度の異常に高い場所、片手袋の聖地とも言って良い場所が存在するのです。

片手袋の聖地になる条件とは何でしょう?

まず、大前提として“手袋が多く使用される場所である事”。手袋の絶対数が多ければその分、落とされる可能性も高くなります。

次に、“忙しい場所である事”。忙しければ忙しいほど、手袋への意識が低下して片手袋が発生しやすくなります。

この二つの条件を満たし、行けば必ず片手袋に出会える、片手袋の聖地。僕は生まれも育ちも東京なので他県の状況は分からないのですが、都内では二か所把握しています。

今日はそのうちの一つ、築地市場をご紹介しましょう。
1_75.jpg
築地で手袋が大量に使われているだろう事は容易に想像がつくと思います。市場の人達は魚をさばく場合ゴム手袋をはめている場合が多いです。また荷物を積んだり運搬したりする際、軍手も沢山使われます。

さらに築地は、東京でも有数の忙しい朝を過ごしている場所でもあります。魚を運ぶターレットという乗り物が、歩行者など一切気にする事無く場内を縦横無尽に駆け回っています。このまちでは歩行者が車に轢かれたら、それは歩行者の責任なのです。気性の荒い河岸の男達は、ターレットから魚の入ったトロ箱が落ちても全く気付かないくらいです。手袋を一つ落としたって気付くはずもありません。
17.jpg4.jpg110404_0853041.jpg
手袋使用量の多さと都内屈指の忙しい場所。二つを完璧に兼ね備えた築地市場。年間通してどの季節でもこの場所で一回も片手袋に遭遇しない、という事はまずありません。

お魚天国としてアジアのみならず、世界中にその名を知られる築地は、実は片手袋天国でもあるのです!まあ、後者は世界中で僕にとってのみの天国ですが。

『片手袋の発生しやすい場所・条件③』

片手袋の聖地(其の二)~東京湾奥~

さて、今回は僕が東京で発見したもう一つの聖地について。

もう一つの聖地は少し範囲が広いのですが、千葉市と横須賀市を結ぶ国道357号(東京湾岸道路)の有明から新木場くらいの区間、及びその周辺の月島や晴海、豊洲といった、釣りの世界で“東京湾奥”と呼ばれる地域です。

この辺りは周辺に運送会社や食品会社の倉庫が乱立しており、手袋の使用頻度がとても高いエリアです(“手袋が多く使用される場所である事”)。また、運送業などはスピードが命となってくる為、忙しさも兼ね備えています(“忙しい場所である事”)。つまり、聖地の二つの条件を見事に満たしているのです。

この近辺には作業中や荷台に積み残されて走行中に落ちたであろう片手袋が、路肩や埠頭に驚くほど沢山落ちています。僕は釣りが趣味なので湾岸線をバイクで走行する機会が多いのですが、いつもその数には驚かされます。

1_4.jpgp8150004.jpg3.jpg

※(写真はいずれも東京湾奥の路肩や埠頭で出会った片手袋)

最初に点々と落ちている片手袋に気付いた時は、「ヘンゼルとグレーテルが森で目印に落としていったパンか!」という、少々長めの突っ込みを心の中でしたものです。いや、本当はしていません。

かくして、全く釣れない日でも片手袋に出会う事は出来る、という心の保険を手に入れた僕の喜びを想像してみて下さい。僕は身も心も片手袋に依存しきりですよ。

『片手袋の発生しやすい場所・条件④』

高速道路の片手袋問題

マイナーな趣味に思われる片手袋ですけども、数年に一度Webやテレビなどで取り上げられる事があります。そういう時、決まって話題になるのは「なんで高速道路には片方だけの手袋が沢山落ちているんだろう?」という事です。

確かに高速道路に落ちている片手袋の数は、僕の分類図に載っているどの種類よりも多いです。そういう意味では高速道路も片手袋の聖地と呼ぶ事が出来ますが、僕はそう思いません。何故か?

いや、これは本当に個人的な思いなのですが、僕はあくまで片手袋研究家なのです。片手袋の写真を撮り、観察し、状況や場所による特性をじっくり研究したいのです。しかし高速道路の片手袋は当たり前ですけど、写真も撮れなければじっくり観察する事も出来ません。それでは物足りないんですよね。

とは言え、高速道路に大量の片手袋が発生するメカニズムについては解明出来ております。

要するに、トラックの荷台やオイルキャップに被せられた軍手が走行中に落ちるんですね。
__.jpgimg_1598.jpg
このオイルキャップが割と取れやすい作りらしく、それを防ぐ手段としてトラック界では一般的な方法だそうです。

他にも軍手は脚立の足に滑り止めとして被せたり、本来の用途以外に活躍する場が多くあります。特にトラックの荷台は色んな用途で片手袋が用いられます。

1010.jpg

こういう風に使われている軍手を見掛けました。恐らく荷台の角をガードしているのでしょう。それに荷台に無造作に放り投げられている軍手もよく見ますが、そういうのが高速走行中に吹き飛ばされてしまうんでしょうね。

ここまで書いて気付いたのですが、僕が高速道路の片手袋にあまり魅かれないのは「人の手を介していないから」なのかもしれません。オイルキャップや荷台から風に煽られ飛ばされていき、それを拾い上げる人もいない。とは言え僕は“片手袋博愛主義者”。「片方だけの手袋」であれば、それがどんな物であっても愛情を注がなければならないのです!

とは言えこれだけ解明出来ていながら、高速道路の片手袋は肝心の写真がないんですよね~。こうなったら高速道路を走行中にビデオでも撮りますかね?

『片手袋が残りやすい場所』

片手袋がずっと残っている場所

1.jpg(2013/1/15撮影) 2.jpg(2013/3/15撮影)
3_2.jpg(2013/1/12撮影) 4.jpg(2013/4/2撮影)
この二組の写真、そして撮影日に注目して下さい。

一組目の写真は全く同じ場所で撮った写真ですが、撮影期間に二ヶ月ほどのタイムラグがあります。

二組目も同じ場所での写真で、こちらは三ヶ月。

全く同じ片手袋が、同じ場所に何カ月もある。しかもそれぞれ目立たない場所ではなくて、大通り沿いにあった片手袋です。

片手袋研究では、片手袋を見掛ける事が多い場所について考察する事が多いです。それはつまり、放置型なら“片手袋を落としやすい場所”、介入型なら“拾った人が片手袋を置きやすい場所”、という事です。

確かに片手袋が発生しやすい場所というのはあります。しかし、冒頭に掲げた二組の写真を見ると、僕はもう一つの概念を忘れていた事に気付きました。

それは言うなれば、“片手袋が残りやすい場所”という事です。

つまり、どういう訳か片手袋が捨てられたり、風で飛んでいってしまったりせず、同じ場所に留まり続けてしまう場所。長い期間同じ場所にあるという事は、人目にもつきやすいという事で、したがって僕のような観察者が写真を撮るチャンスも増えるという事です。

落ちている頻度はそれ程高くないのに、たまたま発生した片手袋がずっと残っていた為に僕が写真を撮る事が出来た場所を、今まで“片手袋が発生しやすい場所”として誤認していた可能性もあります。

これは今までの研究を根本から考え直さなくてはいけない事態なのですが、残念ながら“片手袋が残りやすい場所”についての考察はまだ全然進んでいないのです。分かっているのは、

①放置型よりは介入型で多く見受けられる事
②時間と共に片手袋自体に何とも言えない凄みが出てきて近寄りがたいオーラを放っている事

などです。冒頭二組目の緑の革手袋など、実はこの後三か月後にも同じ場所にありました。つまり半年間存在し続けている事になります。上の写真でも若干分かると思いますが段々革が剥がれてきて、何とも言えない凄みが出てきていました。

いずれにせよ、“片手袋が残りやすい場所”という新たに気付いた概念。引き続き観察していく事にします。

『片手袋が登場する作品一覧』

片手袋は表現を誘発する

2016年、アメリカの俳優トム・ハンクスがTwitterに片手袋写真をアップし続けている事が一部で話題になりました。当然僕は以前から気付いていましたが、トム・ハンクスに限らずインスタグラムで「lost glove」と検索してみると、世界中に片手袋写真を撮っている人達がいる事が分かります。

写真だけではありません。映画・文学・アート、あらゆるジャンルに片手袋愛好家は存在しているのです。そしてそれらを収集する事も片手袋研究の大きな役割の一つなのであります。

とりあえず、現在までに確認できている「片手袋が登場する表現物」を一覧にまとめてみました。

古今東西最新.png

おこがましいようですが、右端には僕の作品も掲載させて頂いております。これらは「物体として片方だけの手袋」が登場する作品群ですが、この他に「思想として片手袋を感じさせる作品」というのもあります。

例えば『君の名は。』などは、片手袋が物語るものと非常に近い思想を感じます。しかしそれを言い出すとキリがないので、ここでは割愛しましたが。

しかし、2005年に僕が片手袋研究を始めた時には全く考えもしなかったくらい、実は片手袋が人を引き付ける力は強いようなのです。これからも片手袋が登場する作品がないか、あらゆるジャンルにアンテナを張って探していきたいと思います。